【感想】斧名田マニマニ『冒険者ライセンスを剥奪されたおっさんだけど、愛娘ができたのでのんびり人生を謳歌する2』
新年あけましておめでとうございます。
初詣にいったり、おとそを呑んだり、おせちを食べたりしてのんびりしてらっしゃるでしょうか。
ふだん会わない親戚と一同に会し、和気藹々としている居間からひとり外れて、鏡餅の上からミカンを取り除いてキンタマ袋を乗せてみる。
そんな姿を叔母さんに目撃されていないでしょうか。
あぁ……そんな僕みたいな人はいませんか……。
さて、そんな愉快で陽気な新年の初読了が、斧名田マニマニさん『冒険者ライセンスを剥奪されたおっさんだけど、愛娘ができたのでのんびり人生を謳歌する2』。
ならびに、唯浦史さん作画・渡辺樹さん構成によるコミカライズ第1巻です。
得体のしれない作家だったのに……【作者紹介】
ぼくがマニマニさんの作品と出会ったのは、デビュー作である『特別時限少女マミミ』をキモオタ小説の新刊コーナーで見かけたときでした。
帯に書かれた「横槍メンゴ絶賛」の文字列。
その絶賛っぷりに惹かれ、そのままレジへ。
「あ、そのままレジに来ちゃダメだった。買いたい商品を持ってこなきゃいけなかった」と思いなおし、また棚へ。
そして商品を持って再びレジへ。
バーコードを読み取ってもらってからお財布のジッパーをあけ、
提示された金額を払い、
おつりを受け取り、
おつりを財布にしまい、
財布のジッパーをしめ、
3日ぶりにズボンのジッパーをしめ、
店員さんが「商品です」と渡してきたピチピチと勢いよく跳ね回るマグロを受け取り、
隣のレジで会計中だったオッサンに「それ、俺のマグロだよ!」と怒鳴られ、
しかる後に本が納められた手提げ袋を持ち帰りました。
『特別時限少女マミミ』はすごく個性的な作品でした。その後のマニマニさんがあまり書いていないタイプの作品ですが、個性的度合いでは彼女の世に出した作品でもナンバー1でしょう。
「得体のしれない作家」とは、『マミミ』のあとがきでご自分を表現していた言葉でした。
たしかに、有名な作家さんたちはすぐ「これの人!」というものがあります。
夏目漱石といえば横浜DeNAベイスターズの4番、宮部みゆきといえば「地球は青かった」と名言を残した宇宙飛行士、水野良といえばロードス島戦記……などなど枚挙に暇がありません。
得体はしれなかったのですが、その後も、
『死んでも死んでも死んでも死んでも好きになると彼女は言った』とその続編。
『異世界でダークエルフ嫁とゆるく営む暗黒大陸開拓記』
などをリリースしつつ、「小説家になろう」でも作品を複数連載。
本作『冒険者ライセンスを剥奪されたおっさんだけど、愛娘ができたのでのんびり人生を謳歌する』も、「なろう」連載作品のうちのひとつです。
また新年のおしらせツイートによると、
2019年の予定について
— 斧名田マニマニ🤖『冒険者ライセンス①』大重版決定🎉 (@manimani_o) January 2, 2019
まず2月8日『復讐を希う勇者は、闇の力で殲滅無双する』が発売になります~! わっしょいわっしょい(*´ω`*)
残りはまだ詳しいことが言えないのですが、小説・コミカライズ合わせて色々出る予定です!
おなじく「なろう」連載作品『復讐を希う勇者は、闇の力で殲滅無双する』の書籍版も発売するそうです。
いますごくノっている、楽しそうに仕事をしている作家さんだといっていいでしょう。
『冒険者ライセンスを剥奪されたおっさんだけど、愛娘ができたのでのんびり人生を謳歌する』ってどんな作品?【概略】
主人公はダグラス・フォードという冒険者……だったはずのおっさん。御年37歳。
小説は彼の一人称で進行します。
物語は数多の冒険者が集う大都会バルザックから始まります。
この大都会の冒険者ギルドで、トップランカーの魔術師であるダグラス。
しかも半年前まで勇者のパーティーにも所属していました。
そんな川崎フロンターレの中村憲剛的なおっさんだったにもかかわらず、ここのところずっと体の調子も悪く、HPもダダ下がり。クエストも失敗続き。勇者のパーティーもクビ。
すっかりギルドお荷物と化したおっさんはついに冒険者ギルドからライセンスを剥奪されてしまいます。
なにかと生活費の高い都会を離れ旅に出るおっさん。
冒険者としてのスキルもろくに使えなくなり、安くてきつい日雇いの仕事をしながら当てもなく流れていく。
そんな日々をおくるおっさんに転機となる出会いがおとずれます。
それが少女というか幼女というか、10歳に満たないくらいのラビです。
ラビとの出会いとなる事件を契機に全盛期の力まで取り戻すおっさん。
なんと、加齢による衰えでなく、呪詛によって力を減じられていたのでした。
身寄りのいないラビ。おっさんは彼女をそれでも生活をしていた街へと帰そうとしますが、それもいやがります。
ラビの様子に元いた場所への怯えを見て取ったおっさんは、自分の知り合いのいるバルザックまで送り届け、ラビの面倒を見てくれそうな人を探すことに決めます。
こうしておっさんの一人旅に、最高に可愛い少女がくわわったのでした。
旅先で目にするすべての新しいラビ。
ラビとともに歩むことで、それまでの冒険者人生になかった新しい視線で世界を見つめなおすおっさん。
ふたりが旅を通じて、いろんな新しいことに出会っていく。
そんなお話です、たぶん。
Web連載版はもう読んでないので、2巻時点までのことしかわかりませんが。
しかも大事なネタバレはしないようにしていますが、たぶん、こんな感じです。
優しい人と優しい人が出会った奇跡と人生の一回性【ネタバレしない程度に感想】
例によって最新ラノベである本作。
なので、ネタバレしない程度に感想を書いたり、乾燥ワカメをもっと乾燥させたりしようと思います。
おっさんへの共感とうらやましさと尊敬
ダグラスの年齢に近づいてきている僕。
結婚していなければ、現在進行形の恋人もなく、脳内彼女はいるものの一線を越えていません。
そんな僕がおっさんと同じように、読書中ラビを第一に考えている。
なんか父性芽生えちゃってる。
人生は1度しかなく、大人が親になるということは(子沢山の人はともかく)初めてのことの連続です。
大人も学びながら手探りで親をやっていかざるを得ません。
それがダグラスを見ているとよくわかるし、2巻に登場した別の親たち(トールキン、ブルーノやアンの親)においても同様です。
その「親となっていく」過程にはやはり、「決意」がともないます。
四話「おっさんと少女、本当の家族になる」はもちろんのこと、二十八話「おっさんと少女、水着を買いに行く」においても、「あぁ、決意するんだろうな、親になると」と思いました。
ふつう男に女の子の水着選びは無理です。いやです。女性用下着売り場に入らなければならない状況のちょい下くらいにはキツイはずです。
でもおっさんはけっこう本気で選んでいて、おっさんを尊敬すると同時に、「自分にもラビのような娘がいたらこうなるのかもなぁ」と。
冒険者としての経験やスキルを使う能力は豊富でも、子供を中心に世界を見ることが初めてのダグラスの姿は、応援したくもなり、子供がいないなりに共感したり、うらやましかったりします。
旅人の話であるということ
2巻は大きく分ければ3パートくらいに分かれると思いますが、その3パート目である幽霊の話。
この話は、旅人であるということがどういうことか、が描かれていると感じました。
旅人であるということは、ラビとおっさんがどれだけ優しかろうと、人を助けることには限界があるということ。
すなわちフルミコットが不可能だということです(ついでにいうなら、1巻の娼館(ヴェロニカ)の話も同様です)。
幽霊の話のうちの一話である三十七話のサブタイトルが「おっさんと少女、物語がいつも幸福な結末を迎えるとは限らないことを知る」なのですが、これはラビたちの前にあらわれるアンの現状のことであると同時に、幸福な結末を迎えさせるためには立ち去っていく存在には難しいということでもあると思います。
この場合アンにフルコミットしている存在は彼女の母親、すなわち家族です。
幸福な結末を目指して最後までフルコミットできる存在が家族。
ラビとおっさんの親子(家族)と旅人の話であることが、すごく良い設定だと感じたエピソードでした。
その他に思ったこと
この作品でもっとも奇跡のようにすばらしいこと。
それはラビとダグラス、つまり、優しい人と優しい人が出会ったこと、だと思います。
「人は正しいことをしたいという本能がある」的なことを島本和彦先生が漫画の中で書いていましたが(うろ覚え)、優しい人と優しい人がふたりで物事に出会う様を読むことで、とても素直で(一部の緊迫したシーンをのぞいては)穏やかな気持ちで物語を楽しむことができると感じました。
また、作者がすごく楽しんで、キャラたちを大切に思って書いているだろう感があります。
「ラビを可愛い/ラビのためにと思って執筆すること」が、一人称を選択しているため「おっさんがラビに対して抱く感情」にダイレクトに変換されている感じといいますか。
執筆の姿勢が、作品の魅力を倍加させることに寄与していると思いました。
以上が小説版2巻の感想ですが、今回はコミカライズ1巻の発売も同時でした。
というわけで、以下が漫画版を読んでのもの。
漫画版1巻の感想。
まずはダグラスさんのかっこいい過去のシーンから始まり、次に小説冒頭のライセンス剥奪シーンへと移るのですが……
おっさん、髭汚ねぇ!
おっさん基本的にけっこうイケメンなのに、かなり不審者感あるぞ。
原作で髭こんなに汚かったっけ……と思ったら剃った。平井堅クラスから石野卓球クラスの髭量へと変化した。ぼくらのおっさんになった。
おっさんは基本的に料理できる系男子なんだけど、絵で見ると非常に美味しそう。林檎のせパンとトドロキ豚のスープ。
というか、おっさん、能力高くて見た目もイケメンで、性格はまじめだけどそこがちょっとおかしいところもあり料理も出来るって。
すっげぇ堅実にモテていきそうなスペックじゃないか。アラサー女子は読むべき。
食事のシーンの見開き2ページと星空が、「THE・異世界ファンタジー」って感じで大変心躍る。
いわゆる召喚や転生ではないのもあってか、『ルナル・サーガ』や『クリスタニア』を読んでいた中高生時代のトリップ感がよみがえる。
印刷から察するに連載版ではカラーページだったっぽいんだけど、それが見れないのが残念といえば残念。
ラビ、可愛い。前髪を切って身奇麗なところをダグラスに見せるときの照れ顔が良い。
「自分の見た目を披露することと、そこで働く自意識」に「女」を感じさせる。ちいさくっても「女」だ。
原作のイラストよりもじゃっかん身長が高い気がする。
脇役キャラのデザインが良い。
セオじいさんのデザインは「趣のある良い爺マニアの会」で堪能すべき。
マットロック院長の表情変化なんかも「胡散臭い残虐デブ男を愛する淑女の会」で愛でるべき。
なによりも、背景の描き方が本当にステキ。
ひとつひとつの建物から、芝生や草のあいだをすーっと地面むき出しの道っているファンタジー感が、「THE・異世界ファンタジー」って感じで大変心躍る。
そしてなにより、ラビがたくさん見られる。小説のイラストには出てこないような、漫画ならではのデフォルメ顔も要所要所にあって、それが最高に可愛い。
さて、ここまで感想を書いてきたわけですが。
乾燥の限界を超えたワカメに触れていたら、逆に僕の体液がワカメに吸われだしたので、乾燥(感想)はここいらにしておこうと思います。
ところで。最後にひとつ、妄想的なことを書いておくと。
ラビって1巻でスキルの潜在能力の高さが明らかになるし、旅のノウハウもおっさんに教わっている(たとえば2巻で差し掛け変形型で湯を沸かす方法を実演してもらったり)。
引っ込み思案で遠慮しがちな性格ながらも、娼館というものについてちゃんと聞いて考えたり、幽霊のような忌避される存在の力になろうとしたりと、内側の芯の強さが垣間見える。
といった点から、このまま成長したらいい冒険者になるような気がしませんか?
「性格の良いリナ=インバース」みたいな少女になりそうな予感がします。
今後の物語がどう進むのか知りませんが、16歳くらいになったラビの物語というのもありえるんじゃないでしょうか。
とか、本編を読みながら勝手に思っていました。
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