ブサイクバカンス読書部

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【感想】川岸殴魚『いせたべ~日本大好き異世界王女、求婚からの食べ歩き~』


ぼくはあまり本を作家買いするタイプの人間ではありません。好きな作家はたくさんいますが、「この人の本は全部読みたい!」とまではなかなか思えず、思ったとしても実行に移すことはなかなかできずにいます。

そんなぼくが「できれば全部読みたい」と思い、とりあえず出ている本の8割くらいは読んでいる作家が、川岸欧魚さんです。

 

今回とりあげるのはそんな川岸先生の『いせたべ~日本大好き異世界王女、求婚からの食べ歩き~』です。


殴魚先生ありがとう いつもおもしろい小説を書いてくれて…【作者紹介】

川岸先生は、第3回小学館ライトノベル大賞の審査員特別賞を受賞した『やむなく覚醒!! 邪神大沼』にて2009年に小学館ガガガ文庫からデビューしました。

以来、邪神大沼人生勇者と勇者と勇者と勇者編集長殺し(現行の最新作)、と、いくつものシリーズををガガガ文庫よりリリースしています。ジャンルは多様ですが、いずれのシリーズもギャグに特化した作品であるのが特徴です。

年齢等は公開されていないようですが、大学時代、芸人のザ・ギースの高佐一慈さんとおなじサークルに所属していたようなので、おそらく彼と近い年齢なのでしょう。

『人生』は2014年にテレビアニメ化しました。おそらくそこで知名度が飛躍的に上昇したとおもわれます。ぼくも人生で知りました。

 

人生で知ったにもかかわらず、初めて手にした作品はデビュー作の『やむなく覚醒!! 邪神大沼』。ネット上で彼のファンらしき人物がこちらを猛烈に推しているのを見かけたことによる選択でした。

 

で、読み進めてみると……ほんとうにとんでもなくおもしろい!! というか笑える!!

 

読書好きの知人にたずねたところ、

 

「邪神大沼は神ですよ!」

 

との返事ももらいました。たしかに神がかったおもしろさでした。

すかさず続刊にも手を伸ばしていきました。

そのたびに、

 

「うん、今回も神だった」

「すごい、また神じゃん」

「お、今回もそれなりに神っぽいような気がするぞ」

「読みながら食べていたファミマの厚切りハムカツが神だった」

「今回はどちらかというと神というより紳だった。紳助だった」

 

と、好印象しかありません。

 

もちろん川岸先生の作品が懸命に笑いを追及しているからだというのもあるのでしょうが、おそらくはギャグの相性が良いのだと思います。

 

SNS全盛の時代なので、とうぜん川岸先生もツイッターをやっています。

しかし、なんというか、好きすぎてツイッターでフォローをすることができずにいます。

たまに手動でユーザー名を打ち込んで新刊情報を見たり、「川岸殴魚」というペンネームを眺めながら「殴る魚ってなんだろう……。ワニワニパニックの亜種かな?」なんて思ったりしています。

 

『いせたべ』ってどんな小説?【概略】

そんなワニパニ亜先生の(いまのところ)唯一のガガガ文庫以外の作品であり、初のWEB小説でもあるのが本作。

 

カクヨムでの連載は、『勇者と勇者と勇者と勇者』の執筆と同時進行でした。

そんないそがしい日々を選ぶなんて、「ほんとうに面白いことを書くことがお好きなんだな」と感じます。

どこで見たのかもさだかではないですが、僕の記憶が確かなら、

 

  1. 賭博
  2. ポメラニアンの世話
  3. 家財道具を槌でめちゃくちゃにされる
  4. 小説を書くこと

 

の順でお好きだとおっしゃっていた川岸先生。

 

かなり上位に「小説を書くこと」がランクインしているだけあって、ひじょうに執筆熱心です。

ぼくたち読者におもしろいことを届けたくてしかたがないのでしょう。

 

あくまでぼくの記憶がたしかなら。
そして、ぼくが週1で服用している「起きた瞬間に即DJ KOOのテンションになれる薬」の副作用が出ていないなら。

 

本作のあらすじはこんな感じです。

ふつうの大学2年生である中村成彦。

ある日、彼の部屋に魔法陣があらわれ、その魔法陣で異世界王女ミユと従者のエレノワがやってくる。

二人がやってきた目的は、異世界で有名人である成彦と結婚して連れて帰り、王位継承争いで優位に立つこと。

しかしいくら美少女の求婚とはいえ、魔法陣からやってきた異世界の人とかんたんに結婚をする気にもなれず、ミユとエレノワは結婚を了承するまでいっしょに暮らすことに。

食いしん坊のミユにこちらの世界のいろいろなものを見聞させながら食べ物を食べていく。

 

とまぁ、異世界召喚モノ+グルメ+ギャグな作品です。

 

また、とちゅうでさらに第3のヒロイン女騎士リディアもくわわり、また政略的な結婚を目的としていたミユやエレノワ関係も変化してゆく。

ほんのりですがラブコメでもあります。

 

うん、これは太るね。おもしろ可愛いけど太るね。【感想】

正統派ラブコメとしてのいせたべ

ぼくの好みによるところが大きいのですが、ヒロインの従者であるエレノワが可愛い!

ラブコメといっても単刊の作品なため、ヒロインたちとの二転三転する三角関係や四角関係が描けるわけでもないのですが、正ヒロインであるミユの従者でありながら、主人公に対してほのかに想いを寄せて(というか、芽生えさせて、くらい?)いたりします。

なんせミユが成彦とポッキーゲームからのキスをしそうになったときに邪魔をするくらいですので(そのシーンのイラストもまた素晴らしいです)。

なんせ成彦にもたれかかって、誘惑しますので(そのシーンのイラストもエロ素晴らしいです)。

エッチな要素(あるんです、ちゃんと)で恥ずかしそうにするところも可愛い。

正ヒロインであるミユはこちらの世界の服を着て美少女っぷりをアピールしてくれますし、第三ヒロインであるリディアも真摯な人格で魅了してくれますが、個人的にはエレノワでした。

 

グルメものとしてのいせたべ

さて、本作は異世界召喚ラブコメであると同時にグルメものなわけですが。

基本的には毎話のように何かしら食べるのですが、出てくるのはどれも安く身近な食べ物ばかりです。

なので、よっぽどの田舎や離島暮らし、または刑務所に服役中でもない限り、すぐ真似することができます

 

小説は主人公の成彦の一人称で書かれており、その成彦が食にこだわりを持っているため、字の文が「ほんとうにこいつ、安い食い物のことよく知ってるなぁ!」感で満ちており、こちらの欲望をおおいに刺激してきます。

 

主人公はアレンジも加えていくタイプです。

 

第一話のからあげクンからすでに、おなじくローソンで売っているアレやコレやえっ、あれ……?なものを付け足していきます。

大変勉強になり、第五話の缶詰回なんか、昨今のサバ缶ブームで買い込んだサバ缶を一段上の味わいにしてくれました。

 

とまぁ、ある種の実用書としても使えるのが本書の長所のひとつです。

 

しかし、です。

 

扱ってる食べ物を食べたくなる。

 

これは本作にとって素晴らしい点であると同時に、非常にこまった点でもあります。

出てくる食べ物が体に悪いものばかりなのです。

 

からあげクン、とんこつラーメン、カップ焼きそばにお菓子類。

油や砂糖のオンパレードです。老化や動脈硬化、生活習慣病へと突き進む気まんまんです。

 

ちなみに先日、『長友佑都の食事革命』という本を読んだのですが、対極に位置していると言っていいでしょう。

 

ぼくも「第一話 からあげクン」を読んだ翌日くらいには、近所のローソンでからあげクンを買っちゃいましたとも。しかも、主人公の成彦のこだわりを真似ようとして複数個。

しかも続く第二話がとんこつラーメンです。はい、これも食べました、夜の11時くらいに!

典型的なデブ活食品をそんなに立て続けに食べたら、体重の増加は不可避というもの。

 

しかたないので、1キロ体重が増えたら1キロお腹の肉を切り落とす、2キロ増えたら2キロ分のもも肉を削ぐ、30キロ増えたらお婆さんをひとり切り落とす、ことによって対処しました(お婆さんの平均体重を知りませんので、適切な対処かどうかわかりませんが)。

 

長友選手の本では、「ビタミンやミネラルなどの微量栄養素をほとんど含まない空っぽのカロリー」だとして、白い砂糖を断つことがすすめられています。

対して本書では、主人公の部屋に「お菓子BOX」なるものが存在し、甘いものが詰まっています。

 

長友選手の本では、「油で調理された料理は時間が経つと酸化が進んで過酸化脂質が増える。この過酸化脂質も細胞を傷つけてしまう物質だ。しかも揚げ物などの高温調理では、そもそも油の一部が酸化されているというから、作り置きのフライドチキンなどまさにダブルパンチ」とされています。

 

対して本書では、からあげクンにプロ野球チップスに炙りBIGカツ。油で調理して時間が経過したものをもしゃもしゃ食べています。

 

これらはとうぜん、川岸先生もじっさいに食べているはず。実体験に即しているはず。

健康なものを食べていて、しかも日常的に激しい運動をする長友選手。
不健康なものを食べていて、パソコンの前で手だけを動かしているだろう川岸先生。

もしかしたら、川岸先生は不健康が好きなのでしょうか。

 

となると――

 

  1. 金が振り込まれたからとんこつラーメンを奮発して中性脂肪で血液をめちゃくちゃに。
  2. 酒を飲んだらやはり〆はとんこつラーメンだ。中性脂肪で血液をめちゃくちゃに。
  3. 賭博行為でボロ負けしてからあげクンを買うお金しか残っていない。過酸化酸素で細胞をめちゃくちゃに。
  4. 女なんてBIGカツでほっぺたを引っ叩けばイチコロなんだ。過酸化酸素で細胞をめちゃくちゃに。
  5. ポメラニアンに噛まれる。右足がめちゃくちゃに。
  6. 家財道具を槌でめちゃくちゃにされた悔しさで自分の体もめちゃくちゃに。
  7. 小説を書くこと。そして発売された本をフライにして過酸化酸素で細胞をめちゃくちゃに。

 

これが本当の「川岸殴魚の好きなものランキング」なのではないでしょうか。

あくまで、きっと本当の川岸先生はこうなのではないか、との推測です。
もしくは「毎日続けるだけで少しずつDJ KOOの髪質になれるサプリ」を飲み続けたぼくが見た幻です。

 

とまぁ、さんざん不健康なメニューだと書きましたが、じつは健康的な食べ物も登場します。

うな重や秋刀魚の炊き込みご飯などです。

うな重に関しては、サッカー指導者養成の名門ポルト大の大学院で最先端のスポーツ科学を学び、現在は奈良クラブでゼネラルマネージャーを勤める林舞輝氏の原稿から引用するのが良いと思われます。

www.footballista.jp

 

 おそらく、鰻は疲労回復にはほぼ完璧な存在です。高たんぱく質な上に、魚類では最も高いビタミンB1の含有量。鰻重たった一つで試合直後の栄養補給が成り立ってしまうんですね。成分表を見ても炭水化物105.8g、たんぱく質24.3g、脂質も比較的低い16.4g。しかも、鰻に含まれる脂質はDHAやEPAのような不飽和脂肪酸と呼ばれる健康に良いとされる種類の脂質です。また、レチノールと呼ばれるビタミンAはかぜの予防や体を健康な状態を保つのに役立ちます。

 

いま日本でもっとも注目を集める若手サッカー指導者のお墨付きです。

うな重は安心して召し上がってください(財布が心配になりますが……)。

 

そして、秋刀魚の炊き込みご飯。こちらは巻末の番外編です。

秋刀魚もうなぎと同じくオメガ3の多価不飽和脂肪酸の食品です。

人参(野菜)、シメジ(キノコ類)まで一緒に炊き込み、茶碗に盛り付けてからは大葉とゴマとかぼすを加えます。

 

これなら長友選手専属シェフの加藤超也さんもニッコリです。

真似して食べれば、本編で不健康になったみなさんの体も回復。

そして、DJ KOOモデルのサングラスにかけられた呪いの効果によりボロボロになったぼくの体も回復してくれるでしょう。

 

というわけで、以上のように、笑えて、可愛くって、出会いと別れのしんみりもあり、健康不健康問わず真似して食べたくなる、そんな良作の本書。

 

まだお読みでないみなさんは、ぜひお手にとってみてください。

または現在進行形の最新作『編集長殺し』でも良いと思います。読んでいて笑えて、女性主人公川田の一人称が可愛く、可愛さとおもしろさがこちらも両立しています。ついでに出版業界の内側もわかったりわからなかったりするので、就活生にもおすすめです。

それでは、川岸殴魚作品で、レッツ、EZ DO DANCE!

 

 

いせたべ ?日本大好き異世界王女、求婚からの食べ歩き? (カドカワBOOKS)

いせたべ ?日本大好き異世界王女、求婚からの食べ歩き? (カドカワBOOKS)

 

 

編集長殺し (ガガガ文庫)

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